【解説】

1.占有の訴えと本権の訴えの関係(第1項)

「占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。」というのは、要するに占有の訴えと本権の訴えは相互にその行使を妨げないということです。

たとえば、盗難があった場合、本権の訴えというのは、所有者が盗人に対して所有権に基づく所有物返還請求権を行使するような場合であり、占有の訴えというのは、所有者が盗人に対して占有回収の訴えを提起する場合です。

この場合、所有者は、所有権に基づく所有物返還請求権(本権の訴え)だけを提起してもよいし、占有回収の訴え(占有の訴え)だけを提起してもかまいません。また、両方を同時に提起することもできます。

さらに、一方で敗訴した後で他方の訴えを提起することもできると考えられています。


2.占有の訴えと本権に関する理由(第2項)

占有の訴えというのは、物の支配という事実状態を保護することによって、社会の秩序を守ろうとするものであり、占有の訴えと本権の訴えは別の目的を有するものであるから、占有の訴えについて、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができません。

たとえば、賃貸借契約が適法に終了したにもかかわらず、賃借人が賃貸人に目的物を返還しない場合に、賃貸人が強引に目的物を奪取したので、賃借人が賃貸人に対して占有回収の訴えを提起したような場合です。

この場合に裁判所が、賃借人の占有回収の訴えに対して、賃貸借契約は終了していて、所有権は賃貸人にあるということを理由に占有回収の訴えを棄却すると、権利者は力ずくでも権利を実現することができるということを認めることになり、社会の秩序の維持という占有制度の趣旨に反することになるからです。

ただ、この場合に賃貸人は黙って、その裁判で占有の侵奪だけを審理されるのを待っているだけではなく、反訴という形で本権の主張をすることはできると考えられています。

反訴というのは、同一裁判手続中で、被告が原告に対して訴えを提起することです。

第1項で説明しましたように、占有の訴えと本権の訴えは、相互に妨げられないわけですから、上記の事例でも、占有回収の訴えとは別に、賃貸人が賃借人に対して賃貸借契約の終了を理由とした返還請求権を提起することはできます。

そうすると占有回収の訴えと賃借物の返還請求権の訴えとは、相互に牽連性(けんれんせい、関連性のこと)が認められるので、両訴訟は併合されて、結局同一の訴訟手続で審理されることになります。

それならば、同一訴訟手続内で反訴という形を認めてもよいではないか、ということです。