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民法372条(留置権等の規定の準用)

【解説】

1.抵当権の性質~物上代位性

抵当権の性質の最後は、「物上代位性」です。この性質は、各種の国家試験で直接問われることが多いので、しっかり勉強して下さい。点になります。

「代位」というのは、他の物に「代えて」という意味です。

もともと抵当権というのは、被担保債権の弁済がない場合に抵当目的物を競売にかけて、競売「代金」で弁済を受けようとする権利です。つまり、抵当権者は、抵当不動産が目的なのではなく、「お金」が目的なわけです。

したがって、たとえば建物に抵当権を設定した場合に、抵当権設定後にその建物が焼失したとします。これで抵当権は消滅するはずです。なぜか?

抵当目的物が存在しなくなるからです。しかし、抵当に入れた建物が焼失したとしても、普通建物は保険に入っていると思いますので、抵当権設定者の手元には、建物の「代わり」に保険金が入ってくるはずです。

それならば、抵当権者は、この建物が保険金に姿を変えても、その保険金から債権の回収を図ればいいはずです。

このように抵当目的物が、金銭に姿を変えた場合に、その金銭に対して「代わり」に抵当権の効力を及ぼす、というのが物上代位性です。

そして、この物上代位で重要なのは、金銭の引渡「前」に「差押え」が必要だという点です。

これは、この金銭というものが物上代位の目的、つまり抵当目的物の形を変えたものであることを特定するためです。

俗に「お金には色が付いていない」といいますが、債務者が一旦金銭を受領してしまいますと、債務者の別の金銭との区別がつかなくなります。あくまで抵当権者が、その弁済にあてることができるのは、抵当目的物が姿を変えた金銭に対してだけです。その金銭を特定する意味があるわけです。

よく試験の問題等で、これは明らかにヒッカケ問題ですが、債務者が保険金を「受領したので差し押さえた。」というような問題が出ることがあります。これは「×」。「受領した」ということは、すでに受領してしまったという意味だからです。受領「前」に差し押さえないといけません。

2.具体例

それでは、「債務者が受けるべき金銭その他の物」の具体例は、どのようなものでしょうか。

保険金については、前述しましたので、その他の具体例を説明します。

(1)目的物の売却代金

抵当権設定者が抵当権が付いたままで抵当目的物を売却した場合の売却代金に対しても、物上代位権の効力が及びます。

もちろん、売却代金が支払われる前に差し押さえる必要があります。

(2)賃料

①意義

抵当目的物を賃貸した場合に取得する賃料に対しても、物上代位権の効力が及びます。

この賃料が抵当目的物の姿を変えたものだというのは、ちょっと分かりにくいと思います。

不動産を賃貸するというのは、どういうことか。建物を考えれば分かりやすいんですが、建物を賃貸すれば、時間が経てば経つほど老朽化して、最後には朽廃といって、建物の価値がゼロになります。その建物を賃貸するということは、時間が経過することによって建物の価値が減少するのと引き換えに、賃料を取っているようなものです。

火災というのが、いっぺんに建物がなくなり、それが保険金というお金に変わるのに対して、賃貸というのは、時間をかけて建物がなくなり、それに代わって賃料が徐々に入ると考えればいいわけです。

したがって、賃料も抵当目的物の姿を変えたものと考えられます。ということでご理解いただけましたでしょうか。

②一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えの優劣

この賃料に対する物上代位について、賃料債権を一般債権者が差し押さえた場合、一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えはどちらが優先するのかという問題があります。

これは、早い者勝ちと考えますが、抵当権者については、抵当権設定登記が抵当権の対抗要件ですから、抵当権の設定登記を基準に考えます。したがって、一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者(賃借人)への送達と「抵当権設定登記」の先後によって決せらます。

【判例】(最高裁平成10年03月26日不当利得返還)
一般債権者による債権の差押えの処分禁止効は差押命令の第三債務者への送達によって生ずるものであり、他方、抵当権者が抵当権を第三者に対抗するには抵当権設定登記を経由することが必要であるから、債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決せられ、右の差押命令の第三債務者への送達が抵当権者の抵当権設定登記より先であれば、抵当権者は配当を受けることができないと解すべきである。

③転貸料債権に対する物上代位権

次に、抵当権者は、賃借人(転貸人)が取得すべき転貸料債権について物上代位権の行使をすることができるかという問題があります。

しかし、これは認めるべきではないというのが判例です。

というのは、賃借人は、抵当権設定者とは立場が異なり、転貸料は、賃借人(転貸人)の債権であり、その債権を他人の債務(被担保債権)の弁済に供されるいわれはないからです(最高裁平成12年04月14日)。