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第3条の2(意思能力)


【改正法】(新設)
(意思能力)
第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
【旧法】
なし

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

本条は、意思能力を有しない者の法律行為を「無効」とする規定です。この規定は、旧法には規定はありませんでしたが、判例(大判明38年5月11日)・学説では認められていたもので、特に目新しいものではありません。

ただ、最近は高齢化社会が進展しているので、その意味で認知症の患者などに対する保護として、明文で規定することに意味があるものと思われます。

認知症の患者などに対する保護としては、従来から民法に規定がある制限行為能力者制度がありますが、この意思無能力者は、制限行為能力者のように家庭裁判所の審判を得ている必要はありません。

ところで、意思能力は、行為の結果を判断するに足るだけの精神能力ですが、この「意思能力」については、「事理を弁識する能力」等の文言を用いて定義すべきであるという議論がありましたが、特に定義規定は置かれていません。

そして、意思能力を欠く者の法律行為の効果については、判例は無効だとしていますが、この無効は意思無能力者側からは主張できますが、相手方から無効を主張することはできない相対的無効だとされています。そこで、これは取消しとあまり変わりがないということで、取消しとすべきという考え方もありました。

しかし、取消しだとすれば、主張権者以外の部分で意思無能力者側に不利な部分が出てくる可能性があります。たとえば、取消権の期間制限に服しますし、意思無能力者に法定代理人などの取消権者がいないときには、事実不利益が生じてしまいます。

そこで、意思無能力者の法律行為については無効としつつも、従来どおり相対的無効であることは解釈に委ねる形を取っています。

なお、この規定と同じく、今回の民法改正により新たに新設された第121条の2第3項に意思無能力者は「その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う」旨が規定されています。

【参考】意思能力の規定が明文化されたことにより影響を受けている条文
第97条(意思表示の効力発生時期等)
第98条の2(意思表示の受領能力)
第121条の2(原状回復の義務)~上記
第526条(申込者の死亡等)