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第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)


【改正法】
(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第147条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法(昭和26年法律第222号)若しくは家事事件手続法(平成23年法律第52号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
【旧法】
(時効の中断事由)
第147条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

1.時効制度の見直し

今回の民法の改正においては、時効制度については、かなり大胆に改正がなされています。本条の時効の「完成猶予」と「更新」という言葉も、旧法に馴染んでいる人にとっては「?」という言葉です。

本条の147条は、旧法では「時効の中断事由」というタイトルの条文でした。しかし、今回の改正では、時効の「中断」制度が複雑で分かりにくいのではないかということで、整理されています。

元来、時効の中断の効果としては、時効の「完成の猶予」と、「新たな時効の進行」という2つがあります。この2つは効果の内容も発生時期も異なるので、今までのように「中断」という一つの言葉ではなく、2つの概念に分けて整理しています。

まず、時効の「完成猶予」ですが、これは時効の完成猶予事由が発生したとしても、時効期間の進行が止まるということはありません。そのまま時効期間が進行しますので、時効期間が満了してしまいます。ただ、完成猶予事由が発生していれば、法律で規定された一定の時期が経過するまでは時効が完成しないという効果が発生します。

これに対して、時効の「更新」というのは、時効の更新事由が発生すると、今まで経過していた時効期間がご破算となり、ゼロにリセットされ、新たにゼロから時効期間の進行が始まるという効果が生じます。たとえば、5年の時効期間の場合、4年10ヶ月が過ぎたとして、時効の完成猶予の場合には、この4年10ヶ月は無駄にはならず、そのまま更に時効期間が進行し続けますが、時効の更新の場合には、この4年10ヶ月が無意味となり、新たにゼロから出発して5年を待って時効期間が満了することになります。

たとえば、裁判上の請求(訴え)は、訴えを提起した時点で、時効の完成は猶予されます。そして、判決が確定した段階で、それまでの時効期間の経過がリセットされ、新たな時効が進行するわけです。したがって、裁判上の請求は、時効の完成の猶予と新たな時効の進行(時効期間のリセット=更新)の両方の事由に該当します。

その他に、債務の「承認」の場合には、時効の更新の効果のみが生じ、時効の完成猶予の効果は生じません。逆に、履行の「催告」の場合には、時効の完成猶予の効果は生じますが、更新の効果は生じません。

このように、旧法で時効の「中断事由」とされていたものでも、時効の完成猶予と更新の両方の効果が生じるものと、完成猶予又は更新の一方しか効果が生じないものが混在していて分かりにくくなっていました。

そこで、今回の改正では、多岐にわたる中断事由について、「時効の完成を猶予する部分」は完成猶予事由、「新たな時効の進行(時効期間のリセット)の部分」は更新事由というふうに振り分けられています。

また、旧法では時効の「停止」事由というのがありました。この時効の停止は、一定の事由が生じた場合に時効の完成が猶予される制度でしたが、「停止」という言葉では、時効期間の進行自体が「停止」し、停止事由が終了すれば、再度残存期間が進行を再開するような誤解を招きやすいということで、先ほどの時効の完成猶予という言葉に統一されています。

旧法 改正法
中断事由 完成猶予事由
更新事由
停止事由 完成猶予事由

まずは、最初に新たに振り分けられたものをまとめておきます。

事由 条文 完成猶予事由 更新事由
裁判上の請求等 新147条等
強制執行等 新148条
財産開示手続(新設) 新148条
承認 新152条 ×
仮差押え・仮処分 新149条 ×
協議を行う旨の合意 新151条 ×
催告など 新150条等 ×
停止事由 新158~161条 ×

※補記

このように、今回の改正では従来の時効の「中断」は、完成猶予及び更新に改められますが、実は今回の改正を経ても、民法164条に「中断」という概念が残っています。これは、164条(占有の中止等による取得時効の中断)は、自然中断であって、法定中断とは区別される概念であるということのようです。したがって、「中断」という概念は、その意味を縮小して、この条文に残っているということになります。

【参照条文】
(占有の中止等による取得時効の中断)
第164条 第162条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。

2.裁判上の請求等(本条)

まず、第1項で、①裁判上の請求、②支払督促、③裁判上の和解・民事調停法又は家事事件手続法による調停、④破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加の場合に、その事由が終了するまでの間は、時効の完成が猶予される旨を規定しています。これらの事由は、旧法ではいずれも時効の中断事由としての「請求」(旧法147条1号)に含まれるとされていたものです。

この時効の完成猶予の始期がいつかという点についてですが、たとえば、訴えの場合には、訴えを提起した時点、一般的には訴状を裁判所に提出した時点と考えられます。

そして、これらの時効の完成猶予事由が、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、各事由が終了した時から、時効が新たにその進行を始め、「更新」されます(第2項)。

他法、各完成猶予事由が、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく終了した場合には、その終了の時から、さらに6箇月を経過するまでは時効の完成が猶予されます(第1項カッコ書き)。これについては、旧法では、訴えの提起があると時効は中断しますが、訴えの却下又は取下げがあれば、遡って時効の中断の効力を生じないことになっていました(旧法149条)。しかし、これについては「裁判上の催告」に関する判例(最判昭45年9月10日)があって、訴えが取り下げられても、取り下げられるまでは「催告」が継続していたと判断し、訴えの取下げから6箇月間は時効の完成が猶予されているものとして扱っていました。改正法は、この判例を踏まえたものと考えられます。

なお、本条第1項3号に裁判上の和解又は調停が出てきますが、この裁判上の和解又は調停についても、相手方が出頭せず、又は和解若しくは調停が調わないときは、その終了の時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しません。これについて、旧法では、和解または調停については、相手方が出頭せず、又は和解若しくは調停が調わないときは、「1箇」月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力を生じないとして、時効の中断(改正法では時効の完成猶予)の期間は1箇月でしたが、改正法では6箇月に伸びていますので、この点で改正がなされています。これは、裁判上の和解等についても、裁判上の請求と扱いを異にする合理的な理由はないということのようです。