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第410条(不能による選択債権の特定)


【改正法】
(不能による選択債権の特定)
第410条 債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在する。

(2項削除)
【旧法】
(不能による選択債権の特定)
第410条 債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは、債権は、その残存するものについて存在する。

2 選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、前項の規定は、適用しない。

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

本条は、不能による選択債権の特定の規定で、実質的にも変更があります。

本条を説明するに当たっては、まず、その内容を図解して、それを見ながら解説した方が分かりやすいので、まとめの表を最初に記載しておきましょう。

  旧法 改正法
選択権者に過失 残存 残存
選択権を有しない当事者に過失 すべて すべて
双方に過失なし 残存 すべて→危険負担(536条1項)

旧法においては、第1項で、原則として、給付の中に「初めから不能であるもの」又は「後に至って不能となったもの」があるときは、債権は、残存するものについて存するとしています。そして、第2項で、選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、残存するものに限定されないとしています。ちなみに、選択権は、原則として債務者にあります(第406条)。

しかし、旧法は、給付の中に不能なものがあるときに、原則として、残存するものに限定されるとしていますが、不能のものを選択する方が選択権者にとって有利な場合もあり、また、そうしても選択権を有しない当事者の負担が重くなるというものでもありません。

そうであれば、残存するものに限定する必要はなさそうですが、選択権を有する者が、自分の過失で不能となったものを、自ら選択するというのも公平の観点からは問題です。

そこで、改正法は、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在するとしています。

以上より、結局、旧法と、改正法での違いというのは、上記の表を見てもらえば分かりますが、双方に過失がない場合についてということになります。

そして、改正法によると、選択権を有しない当事者の過失による場合には、債権は残存するものに限定されないので、選択権者が不能となったものを選択すれば、債権者は、債務者に帰責事由があれば損害賠償を請求することができます(第412条の2第2項)。双方に帰責事由がなければ、普通に危険負担の問題として処理され、債権者は反対給付の履行を拒むことができます(第536条1項)。

なお、旧法では、「初めから不能であるもの」についても、債権は残存するものに限定していますが、改正法では、給付がはじめから不能、すなわち原始的不能であっても、選択権者が不能の給付を選択することが可能となっています(第412条の2第2項)。したがって、「初めから不能であるもの」というのは、改正法の規定からは外されています。