※この記事は一般的な条文解説で、宅建等の資格試験の範囲を超えた内容も含みます。当サイトの記事が読みやすいと感じた方は、当サイトと資格試験向け教材の関係をご覧下さい。

第425条の2(債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利)


【改正法】(新設)
(債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利)
第425条の2 債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。
【旧法】
なし

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

第425条の2(債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利)

詐害行為取消権が行使されると、詐害行為の効力は否定され、逸出した財産は債務者の元に返還されることになります(424条の6)。そして、受益者が財産を取得するために反対給付をしていた場合、受益者にその反対給付の返還請求を認めたのが本条です。例えば、債務者の所有している自動車を受益者に売却した場合、この売買契約が詐害行為として取り消され、買主である受益者は当該自動車を債権者に引き渡すことになった場合に、受益者が債務者に対して反対給付である売買代金の返還を求めるというような場合です。

なんとなく読むと、当然のような気がしますが、旧法下の判例(大判明44年3月24日)では、詐害行為取消の効果は債務者には及ばないとされていたので、受益者はその反対給付の返還を直ちに求めることはできないとされていました。

ただ、破産法においては、受益者の反対給付について、原則として財団債権として扱い、破産債権に先立って弁済されるとしています(破産法168条1項)。詐害行為取消権についても、この破産法との整合性を保つ必要があります。

【参照条文】
(破産者の受けた反対給付に関する相手方の権利等)
破産法第168条1項 第160条第1項若しくは第3項又は第161条第1項に規定する行為が否認されたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
一 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存する場合 当該反対給付の返還を請求する権利
二 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合 財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利

そこで、改正法では詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者に対してもその効力を有するとし(第425条)、債務者の財産処分行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができるとしました(本条前段)。

この点について、受益者・転得者の反対給付の返還請求権について、先取特権を付与して優先的な保護を与えることも検討されましたが、詐害行為取消権を行使した債権者よりも、受益者・転得者が優先的に保護されるというのは適当ではないということで、先取特権を付与する規定は置かれませんでした。

なお、債権者が受益者に対して、詐害行為取消権に基づき金銭等の引き渡しを求めた場合に、受益者は債務者に対する反対給付の返還との同時履行の抗弁権を主張することができるかという問題があります。しかし、取消債権者は、反対給付の返還義務を負わないので、同時履行の抗弁権の主張を認めると詐害行為取消権の実効性が失われるので、同時履行の抗弁権を主張することはできないものと考えられます。

それに対して、債務者が受益者に対して詐害行為取消権の対象である財産の返還や不当利得の返還を求めた場合に、受益者が反対給付の返還を同時履行の抗弁権として主張することができるのかについては今後の解釈に委ねられているようです。

なお、先程書いた破産法168条1項では、破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合には、財団債権者として反対給付の「価額」の償還を請求する権利を行使できると定めていますが(破産法168条1項2号)、詐害行為取消権においても同様に、本条後段で、債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その「価額」の償還を請求することができる旨を規定しました。