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第504条(債権者による担保の喪失等)


【改正法】
(債権者による担保の喪失等)
第504条 弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位権者は、代位をするに当たって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる。その代位権者が物上保証人である場合において、その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても、同様とする。

2(新設)前項の規定は、債権者が担保を喪失し、又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。
【旧法】
(債権者による担保の喪失等)
第504条 第500条の規定により代位をすることができる者がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位をすることができる者は、その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる。

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

1.第1項

本条は、債権者による担保の喪失又は減少の規定で、旧法の規定に追加がなされています。

まず、旧法の内容を見ていきますと、弁済をするについて正当な利益を有する者(以後は、改正法の用語に従って「代位権者」と書きます)がある場合、債権者が故意・過失で担保を喪失・減少させたときは、代位権者は免責される旨を規定しています。

この規定は、債権者には代位の対象となる担保を保存する義務があることを前提に、この保存義務に違反した場合の効果を定めていると考えられています。

そして、代位権者が「その責任を免れる」というのは、代位権者が債権者に弁済するにあたり、総債務額から、担保の喪失等により償還を受けることができない額を控除して、その残額だけを支払えば、債権者に対する関係では、債務の完済があったものと扱うという意味だとされています。たとえば、債権者が債務者に対して100万円の債権を有しており、その債権について保証人がついていて、さらに50万円の価格の担保物があったとします。そして、この担保物が債権者の故意又は過失で滅失したとします。そうすると、保証人としては50万円を債権者に支払えば、100万円支払ったのと同じだ、という意味になります。また、債権者から100万円の請求訴訟が起こされれば、債務不存在を理由に50万円分の請求を拒絶することができますし、債務の一部の不存在確認の訴えを提起することもできます。

ここまでは、旧法の説明ですが、その内容は、改正法では文言は変わっていますが、第1項前段でそのまま残っています。

ただ、改正法第1項には後段があって、この免責は、代位権者が物上保証人である場合の第三取得者及びその特定承継人についても認められています。このような者は、従来の条文からは免責が認められるかどうかは明らかではありませんでした。ただ、判例は免責を認めており、たとえば、「債務者から抵当不動産を譲り受けた第三取得者は、債権者に対して、債権者が抵当権によって把握した不動産の交換価値の限度において責任を負担するものに過ぎないから、債権者が故意又は懈怠により担保を喪失又は減少したときは、第504条の規定により、担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった金額の限度において抵当不動産によって負担すべき責任の全部又は一部は当然に消滅し、当該不動産がさらに第三者に譲渡された場合においても、責任消滅の効果は影響を受けない」という判例(最判平成3年9月3日)があります。そこで、改正法でこの第1項後段が追加されています。

2.第2項

次に、さらに追加された条文として第2項があります。もともと旧法については、特に銀行実務の立場から、その合理性を疑問視する指摘がありました。銀行取引は、長期継続的に行われるものであり、債務者の経営状況の変化等に伴い、債務者から担保の差替えや一部解除の要請が頻繁に行われているとされています。しかし、担保の差替えや一部解除は、少なくとも形式的には第504条の担保の喪失又は減少に該当するため、この要請が合理的なものであったとしても、債権者としては、代位権者全員の個別の同意を得ない限り、債務者からの要請に応じることができず、時宜に応じた円滑な取引に支障が生じるという指摘がされています。このため、金融機関等は、実務上、代位権者となる保証人や物上保証人との間で、担保保存義務を免除する旨の特約を事前に結ぶことにより、このような不都合に対応しているとされています。

そこで、第2項が追加され、債権者が担保を喪失又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときには、債権者の担保保存義務違反を問われることはなく、代位権者も免責されないという規定を設けました。