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第526条(申込者の死亡等)


【改正法】
(申込者の死亡等)
第526条 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。
【旧法】
(申込者の死亡又は行為能力の喪失)
第525条 第97条第2項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない。

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

本条は、旧法525条を改正した規定です。旧法525条は、「第97条第2項の規定は ~ 適用しない。」という表現で分かりますように、97条2項の例外的場合を定めた規定です。

第97条は、第1項で隔地者に対する意思表示について、到達主義の原則を定め、第2項でその意思表示を発した後に表意者が死亡又は能力喪失の場合でも、意思表示の効力が影響を受けないことを定めています。これは意思表示一般の原則です。この一般原則に対して、525条(改正法526条)は、契約の成立について例外、すなわち意思表示(申込み)が効力を有しない場合を定めています。

その例外の一つは、「申込者が反対の意思を表示した場合」です。これは具体例としては、申込者が、自分が生存する間だけ申込みがその効力を生じる旨の留保をした場合、あるいは申込者が成年後見開始の審判の請求をしており、後見開始の審判を受けたときは申込みの効力は生じないものとする旨を付言していた場合などです。

これについては、97条2項は強行規定ではないので、「申込者が反対の意思を表示した場合」に、その意思表示に従うのは私的自治の原則からは当然ですから、規定の必要はなく、削除すべきだという考えがあります。しかし、改正法では、「申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき」と分かりやすく書き直した上で、削除はしていません。

次に、例外の2つ目は、「その相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合」です。具体例としては、申込者が申込みの発信後に死亡し、そのことをテレビや新聞の報道等によって知ったような場合です。

第526条(申込者の死亡等)

この適用範囲については、争いがあります。通説では、申込みの発信後、申込みの到達前の死亡又は行為能力の喪失にのみ適用されるとしています。これに対して、申込みの到達後、承諾の発信までの間の死亡又は行為能力の喪失があった場合でも、本条が適用されるとする考えもあります。したがって、申込みの到達後、承諾の発信までの間の死亡又は行為能力の喪失があった場合について、両者の見解が異なることになります。

通説によると、申込みの到達後、承諾の発信前に申込者の死亡等があり、相手方がそれを知った場合には、本条が適用されないので、97条2項の原則通りとなり、申込みの効力は失われず、それに対して承諾があれば契約が成立することになります。この考えは、旧法525条の適用範囲を狭く解して契約成立のチャンスを広く認めようとする狙いがあるといわれます。

これに対して、申込者が死亡しているにもかかわらず、契約を成立させる必要がどの程度あるのか、という批判があります。

そこで、改正法は、「相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない」として、先程の後者の説を明文化しました。

なお、条文全体として、旧法が第97条第2項の規定が適用される、適用されないというふうに規定されていたために、一読して分かりにくい条文になっていたので、改正法は、申込みの効力が生じる、生じないというふうに直接その内容を記述する形に文言を改めています。今回の改正全体を通して、分かりやすい民法を作るという観点からの配慮です。