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第622条の2(敷金)


【改正法】新設

第4款 敷金

第622条の2 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
【旧法】
なし

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

1.総論

敷金は、賃貸借契約の締結の際には、多くの場合に交付されるものであるにもかかわらず、旧法にはわずか2か条に敷金という言葉がちょっと出てくるくらいで、敷金の定義や、返還等については、規定がありませんでした。そこで、今回の改正法で、正面から敷金の定義、返還時期等について規定を設けています。ただ、これは従来からの判例によって認められていたものを明文化したものといっていいでしょう。

2.定義(第1項)

まず、敷金の定義ですが、「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」としています。

「いかなる名目によるかを問わず」ということですから、賃貸借契約締結の際には、敷金だけでなく、礼金、権利金、保証金等の名目で金銭が交付され、その目的も様々ですが、名目ではなく、上記の定義に合致するかどうかで、本条の「敷金」に該当するかどうかが決まります。

次に、敷金は賃料債務等の金銭の給付を目的とする債務を「担保」する目的で交付される金銭です。これも従来から認められていたものです。あくまで、担保目的ですから、賃料の不払いがない等で残額がある場合は、賃借人に返還される性質の金銭です。

3.敷金の返還時期等(第1項)

上記のように敷金というのは、賃借人に返還される性質のものですが、それは、敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した「残額」が返還対象です。

そして、返還時期は、まず「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」です(第1項1号)。これも従来から判例で認められていたもので、いわゆる明渡し時説と言われていたものです。ここは、「かつ」という文言に注意して下さい。試験問題などでは、「又は」で「×」という形で出題されるのでしょうか?賃貸借が終了しただけでは足りず、賃貸人が賃貸物の返還を受けたとき、つまり、明渡しがあってはじめて敷金の返還義務が生じるのであって、敷金の返還と明渡しでは、明渡しが先履行となり、敷金の返還と明渡しは同時履行の関係には立ちません。

それだけではなく、「賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき」(第1項2号)も敷金の返還義務が生じます。

4.敷金の充当(第2項)

賃貸人は、賃借人が賃料の支払い等の債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができます。ただ、賃借人の側から、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができません。これも、従来から判例で認められていたものです。