事例8~危険負担

【登場人物】

A:売主(宅建業者ではない)
B:買主(宅建業者ではない)
C:媒介業者

【事例】

AとBは、Cの仲介(媒介)によって7月1日にA所有の中古建売住宅をBに売却する売買契約を締結し、同日手付金を交付した。

売買契約の主な内容は下記のようなものである。

  • 引渡し及び代金決済予定日は7月31日とする
  • 手付解除期日は、契約締結後10日以内とする
  • いわゆる危険負担の特約が付いている

しかし、7月15日に地震が発生し、建物の外壁にクラック(ひび割れ)が生じる被害が発生した。

Bは、「地震に対して安全でない建物は購入できない。契約を解除するので、手付金と仲介手数料を返せ。」と主張している。

Aは、すでに次の住まいに転居していて、いつでも引き渡せる状態である。

この場合の買主の主張は認められるでしょうか?

※本事例はRETIOメルマガ第38号の相談事例を基に作成しています。

【解説】

この問題は、いわゆる危険負担の典型的な問題です。

契約内容を見てみますと、引渡し及び代金決済日は問題ないとして、手付解除期日が「契約締結後10日以内」となっていますが、この特約は認められます。

売主が宅建業者で、買主が宅建業者でない場合は、買主に不利な解約手付に関する特約は認められません。

民法の解約手付の規定では、「相手方が履行に着手するまで」は買主は手付を放棄して、売主は手付の倍返しで契約を解除することができます。したがって、本契約のような手付解除期日を定める特約は、宅建業者が自ら売主の場合には無効とされる可能性がありますが、本事例では、宅建業者でない者同士の契約ですから、このような特約も認められます。

もっとも、買主は「手付金の返還」を要求しているので、手付放棄による手付解除をする気持ちはないのでしょう。ただ、通常の解除の主張が認められない場合に、手付を放棄するので解除するといっても、「もう遅い」ということになります。

次に、本事例の契約には、いわゆる危険負担の特約が付いていますが、特約の話の前に、民法の原則に従って本事例を見てみましょう。

本事例では、契約締結後、債務者(売主)の責めに帰することができない事由(地震)で、履行が不可能になっていますので、いわゆる危険負担の問題になります。

危険負担においては、原則として債務者主義が取られているので(民法536条)、地震による被害は債務者(売主)が負担する必要がありますので、代金の減額などに応じる必要があるということになりそうですが、本事例では中古建売住宅という「特定物」の売買です。

このような特定物の売買の場合には、例外的に債権者主義が取られており(民法534条)、目的物の滅失・毀損があっても、その損害は債権者(買主)が負担するので、売買代金全額の支払いを免れることはできません。

しかし、この民法の債権者主義の規定も、任意規定だとされており、当事者が特約で別の内容を定めることができます。それがいわゆる危険負担の特約というもので、たとえば「本物件の引渡完了前に天災地変、その他売主、買主いずれの責にも帰すことができない事由によって本物件が毀損したときは、売主は、本物件を修復して買主に引渡すものとする。その場合、買主は、売主に対して、その引渡延期について異議を述べることはできない。…買主は、本物件の毀損により契約の目的が達せられないときは、この契約を解除することができる。」というような条項を売買契約書に入れます。

したがって、上記の危険負担の特約と同内容の特約が定められているとすると、売主は建物のクラックを修理して引き渡せば、契約上の義務を履行していることになるので、買主が契約を解除することはできません。

したがって、媒介業者にも何らの責任もなく、仲介手数料(報酬)の返還請求もできません。

かえって、買主が決済期日に代金支払をしなければ、買主の債務不履行となり、損害賠償を請求されたり、売主は相当の期間を定めた上で催告し契約を解除することもできます。

結論としては、買主は素直に代金を支払って、住宅の引渡しを受けるしかないということになります。「地震に対して安全でない建物は購入できない」と思っていたのであれば、本事例のような売買契約書で契約したことが間違いだったということになります。